さて、少し遅れましたが夏期調査報3と題し、カンボジア・アンコール遺跡調査のご紹介をいたします。
アンコール調査とは小岩正樹研究室の前身である中川武研究室から続くゼミ・プロジェクトによる調査です。様々な土着の宗教が影響しあう東アジア圏における建築文化を理解するのに際してカンボジア・アンコール王朝の建築文化の解明は大きな意味を持ち、そこに向けて30年間にわたる調査が行われてきました。
本調査は例年アンコールゼミの学生が参加し、図面作成や考古学研究室とのGPR調査など毎年異なる調査を行なっています。
アンコール調査は毎年調査内容が変わるため、調査手法を検討することから始まります。現地では同じ地域で調査をされている考古学や地盤工学、美術史など様々な専門分野の先生方にアドバイスをいただきながら調査を進めています。
昨年まではバイヨン寺院にて寺院全体の平面図作成を行っておりましたが、本年度は塔に着目し、その分類と立面図作成を目標としました。約1ヶ月にわたる調査で、調査手法に制限がある中で試行錯誤しながら図面作成を試みました。そして本年度より10世紀の都市、コー・ケー遺跡群での調査も合わせて開始しました。
<調査メンバー>
小岩正樹、石塚充雅
M1:米岡碧海
B4:大澤萌香
<バイヨン寺院調査:2025年度>




本年度のバイヨン調査は塔の復元を目標とした調査です。2023〜2024年度のバイヨン調査での平面図作成に続いて、立面図の作成を行いました。昨年度までの調査手法を参考に、東京大学生産技術研究所の大石先生にご提供いただいたバイヨン3Dモデルの参照と現場確認を繰り返しての作業となりました。また、バイヨンの塔は倒壊が激しいことから塔の作図のみならず、塔から落下した石材の撮影、実測、3D測量を行いました。
上の写真は塔の屋根に置かれた隅飾りという部材です。
<コー・ケー調査:2025年度>


コー・ケー遺跡群では近年調査環境が整い始めており、この地域の研究がアンコール王朝の歴史解明に寄与すると考えられます。コー・ケー調査では、護国寺院プラサート・トムを中心とした周辺調査を行い、主に寺院の配置関係について検討を行っています。コー・ケーでは寺院の主軸角度の傾きにばらつきがあり、プラサート・トム周辺の寺院と大貯水池ラハールでは類似した傾きが見られます。今回は関係が推察される遺跡群を中心に現地踏査を行いました。
また現地ではプレアヴィヒア機構にコー・ケーのGISデータをご提供いただき、遺跡間の距離関係の分析を行いました。
今回調査を行ったバイヨン、コー・ケー、それら2つの遺構はどちらも世界遺産であり、1900年代初頭より現在に至るまで修復活動が続いています。古代の遺産は地域や国といった規範にとって重要な意味を持ち、今に至るまで大きな力を発揮してきました。そうした遺産に触れて研究していくことは時間のかかることですが、人の生活が根差す文化の基盤を守り、その価値観を更新していくことにもつながります。
アンコールゼミでの調査・研究は未だ謎の多いアンコール王朝の建築文化の理解、そして今後の修復活動にも直結します。ここでの研究は文化遺産の保存・修復活動の最前線に立ち、文化財との向き合い方を学ぶことのできる非常に貴重な機会となっています。
年度末の成果発表に向けて、引き続き図面作成や考察を進めていきますので、これからもアンコール調査の動向にご期待ください。
文責:米岡、大澤、松野